Column
英国産ビーフ&ラム
~ 英国・湖水地方 視察旅 vol.5 ~
写真 ©AHDB
~羊農家編~
「ローフット・ファーム」
◎「ローテーション・グレージング」で牧草の成長率向上
今回、2つの羊農家を訪問した。いずれの農家も自然放牧による飼育を行うとともに、地域の特性に合った飼育方法や品種の選定、AHDB(農業・園芸開発委員会)が提案する牧草の改良などに取り組むことで、サステナブルに配慮しながらも生産性向上を目指す姿を見ることができた。ここでは各農場の特徴や取り組みを紹介する。
カンブリア州ペンリス・バンプトンにある「ローフット・ファーム」は、羊(母羊950頭、肥育羊1,400頭飼養)を中心に繁殖肥育一貫経営を行う農場だ。年間出荷頭数は1,200頭、出荷月齢は4~9カ月齢。20年以上にわたり、リチャード・カラザース氏、妻のレイラ氏の夫婦で農場を経営し、敷地には150ヘクタールの牧草地のほか、ファームショップ(直売所)も併設する。
同農場の特徴のひとつが「ローテーション・グレージング」を採用している点だ。羊を放牧する区画を2日ごとに移動させ、牧草の休息期間(20日間程度)を設けることで、より効率的な牧草の生育を促すシステム。これにより、人工肥料を使用する必要がなくなり、牧草の成長率が40%程度向上したという。同地域は降雨量が非常に多く、冬は牧草の成長が緩やかになるため、牧草の成長を最善化するため、同システムを取り入れている。また、1ヘクタールあたりの牧草の栄養素を測定する「ドライマター」を実施しており、月に1回、すべての区画の牧草を測定し、この情報を基に、区画ごとにどのくらいの期間、羊を放牧するべきかをデータ化し、管理している。
牧草の栄養素を測定する装置
餌となる混合種の牧草
牧草では、ライグラスをはじめホワイトクローバー、レッドクローバー、チコリといった混合種の牧草の生育にも取り組んでいる。混合種、もしくは従来から生育する牧草と、区画ごとにバランスの取れた牧草地を目指し、日々改良を続けている。この混合種の牧草を取り入れることで、羊それぞれが好みの牧草を食べることができるため、羊の成長率向上につながるという。羊の品種はグラスベースで良く育つテクセル種との交配種に変更し、品種とこれら農場システムとの相乗効果によって、より効率的な農場運営を行っている。
「ハートソップ・フォールド・ファーム」
◎伝統的な手法を守り持続可能な畜産経営を実現
「ハートソップ・フォールド・ファーム」はカンブリア州ハートソップの丘陵地に位置する羊の繁殖農場。グループ農場合わせて5農場、サイレージ製造4カ所を所有し、計4,000頭を飼養する。農場で使用する水は雨水を利用するほか、完全な自然放牧による伝統的な飼育方法を長年にわたり継続しており、サステナブルで持続可能な畜産経営を実現している。
また、同地域は、国から指定保護された植物が生存する「SSSI」(トリプルエスアイ)に指定されており、この土地に根付く植物を守っていくため、牧草地の改良にも積極的に取り組んでいるという。さらに、この地域一体は「ドライストーン・ウォール」と呼ばれる石だけを積み上げた石壁が連なる景観も特徴的で、石壁が隣接地との境界になっているほか、羊が脱走してしまうのを防止している。
羊の品種については、同農場では、厳しい気候や勾配が急な丘陵地に対応できる「スウェールデール」を飼養している。この品種は、「急な坂も登れる丈夫な脚が特徴で、丘陵地という土地の特性に合っている」とオーナーのジョナサン・ホジソン氏は話す。また、羊たちはそれぞれ自らのエリアを決めて行動しており、エリアは親から子へと引き継がれていくため、血脈をつなぐことも重要だという。
このうち、生まれた雌羊はグループ農場で、生産性が高く増体の良い「ブルーフェイスレスター」と交配し、「ノースオブイングランドミュール」という交雑種を生産している。「ブルーフェイスレスター」はプレミアムな羊として出荷されている。
文・食品産業新聞社・畜産日報部 石田氏