Column
英国産ビーフ&ラム
~ 英国・湖水地方 視察旅 vol.6 ~
英国のスーパーマーケットにて
◎ミートカウンターではブッチャーによる対面販売を行う
英国といえば、「フィッシュアンドチップス」や「ローストビーフ」などが伝統的な料理として知られている。また、古くから食肉文化が形成されてきたなかで、欠かせないのがブッチャー(職人)の存在だ。ここでは、実際のスーパーの売り場などを通じて、英国特有の食肉文化について紹介する。
このUKにあるスーパーマーケットは国内に500店舗以上を展開する大手スーパーマーケット。英国で唯一、と畜場も運営するスーパーマーケットチェーンで、従業員のうち約2,500人が食肉部門に従事。所有する3カ所のと畜場では、1週間あたり牛3,500頭、豚1万9,000頭、羊8,000頭を処理している。
視察で訪れたリバプールの店舗では、常時80~100種類の食肉、食肉加工品を扱っており、ミートカウンターではブッチャー(職人)による対面販売も行っている。このミートカウンターでは、すべて英国産の食肉を並べているという。食肉売り場では精肉(牛肉、豚肉、羊肉、鶏肉)に加え、加工品など数多くのアイテムが陳列され、そのうち、精肉は自社工場で加工した「スキンパック」商品などが並ぶほか、店舗のミートカウンターでカット・スライスした商品も並ぶ。
同社の貿易部部長のスコット・ブラッドレー氏によると、「最近は原料高の影響もあり、比較的買い求めやすい豚肉や鶏肉、ひき肉が良く売れている。とくに売れ筋はボンレスのポークロインステーキで、豚肉販売量のうち、60%をロインが占めている」と話す。また、「ひき肉は赤身含有率の高いものの方が価格も高い。ハンバーグパティを作る際はある程度、脂肪分のあるひき肉が好まれるが、ボロネーゼなどは脂肪分が少ないものが好まれる傾向にある」とし、英国では調理に適したひき肉を選ぶという食文化があるため、売り場では、赤身含有率の異なるひき肉が数多くラインアップされている。
そのほか、日本でもコロナ禍を経て近年需要が高まっている、冷凍商材やミールキット、レンジアップ商品などについても、手軽に調理できるという利点から、英国でも若年層を中心に需要が高まっているという。
ブッチャーズ・ホールを訪問
◎ブッチャーのスキル向上や教育をサポート
英国では、前述のスーパーマーケット同様、ブッチャー常駐のミートカウンターを設置しているスーパーマーケットも多く見られる。この食肉加工を行うブッチャーの存在は、古くから英国の食文化を支えてきた。現在、食肉を扱う店舗では、食品安全の観点からブッチャーのライセンス取得が義務付けられている。
写真 ©AHDB
今回、シティオブロンドンにある「ブッチャーズ・ホール」を訪れることができた。ここを運営する職業団体「ワーシップファー・カンパニー・オブ・ブッチャーズ」は、同地域で最も歴史ある団体のひとつで、ブッチャーのスキル向上や育成といった教育活動、チャリティー活動などを通じて、あらゆる面から食肉業界をサポートし、業界の発展に尽力している。英国王室との関係性も深く、長年にわたり王室からも支援されている団体だ。
団体の本拠地である「ブッチャーズ・ホール」は975年に設立され、千年以上の長い歴史を誇る。最初に建てられた建物は1666年のロンドン大火災で焼失、その後1940年には世界大戦による空襲で再び倒壊したものの、1960年に現在の建物が建設され、最近では改装もされている。
写真 ©AHDB
視察に合わせて、AHDB主催で晩餐会が開かれたほか、AHDB(農業・園芸開発委員会)食肉処理マネージャーのマーティン・エクルズ氏による英国産食肉(牛肉、羊肉、豚肉)のカッティングデモンストレーションが行われ、長年ブッチャーとして活躍してきたエクルズ氏の見事なカッティング技術が披露された。
(おわりに)
英国の食肉産業は、パッカー各社の最新テクノロジーなどを駆使した高度な加工処理技術や衛生管理に支えられており、各国の輸出要件やカスタマースペックへの対応など、市場が求める要求に応えるべく日々努力していることを実感した。また、生産農家ではAHDBとの連携の下、牧草地や家畜の品種改良など生産性向上を図りながら、広大な土地を活かした“放牧”という自然と調和した方法で、動物にも、環境にも配慮したサステナブルな畜産経営を追求する姿を見ることができた。
英国は他国に比べ気候による影響が少なく、高品質なグラスフェッドビーフ・羊肉が安定的に供給できるという優位性がある。2019年に日本の輸入が解禁したことで、新たな供給地として注目される英国。それゆえに、日本の食肉業界にとっても今後、将来を見据えた長期的な関係を構築していくことが重要になるといえる。
最後に、今回の取材に協力していただいたAHDB、そして現地で取材対応いただいた方々に感謝を申し上げます。
文・食品産業新聞社・畜産日報部 石田氏